携帯テスト
只今携帯用サイトでの小説公開に向けて、文書表示テスト中です。

CSS,どこまで読んでくれるのやら。



とにかく、いろいろ試してみないことには始まりません (`・ω・´)


◆ ありがちなプロローグ


――世界が闇に包まれるとき、伝説の勇者が現れ、銀の泉の乙女より授けられた魔剣で闇を切り開くだろう。乙女の盾はあらゆる魔力を防ぎ、混沌は終わる――
 『予言者リリィの書』

これは、魔物が現れて人々に害をなすようになるまで、単なるお伽噺でしかなかった。

幾度となく、魔物退治のために剣豪や魔導師や神官が集められ、討伐の旅に出かけたが、誰一人戻ってきたものはいなかった。

魔物の被害が一向に減らないことから、討伐隊が失敗したことは明らかであった。
人々は絶望にうち拉がれた。

そんなとき、人々が思い出したのが、リリィの書の一文であった。

闇とは、この魔物による殺戮や町の破壊を指すのではないか、だとしたら、闇を切り裂くための唯一の方法が、予言書の一文なのではないか……と。

しかし銀の泉については、その場所も大きさも記されておらず、本当にあるのかどうかさえ定かではなかった。

そこで王の命令により、各地に銀の泉捜索隊が派遣されることになった。

道中で消息を絶つ者が半数を超えていたが、唯一の希望を諦めるわけにはいかなかった。

そして今、深い森の奥深くを進む二人連れがいた――


◆1 泉を探して

「なあ、ホントにこんなとこに銀の泉とやらががあるのかよ」

剣士見習いのディーンがぼやいた。見習いというからには、剣士ではない。年は15歳。将来どういう職業に就こうかと迷っていた時に、剣士見習い募集の張り紙を目にした。王宮の剣士養成所の門を叩いたのが1ヶ月前。

魔物が跋扈するこのご時世、安定した収入は望めそうにないが、せめて王宮付きの警護あたりにでもなれれば、何とか食べて行けそうな気がしたのだった。

「僕が知るわけないだろう?」

投げやりに応えたのは、同じく魔導師見習いのキイスである。年はディーンと同じ15歳。赤ん坊の頃に森の中に捨てられていたのを、丁度薬草を集めにきていた薬師夫婦に拾われて育てられた。今では養父母を助ける孝行息子であったが、薬師だけでは将来の事業拡張は望めないからと、やはり先月魔導師養成所に入った。

小さい頃から、植物の気を読み取ることができた。この力は生まれつきのもので、薬草を集めるにはうってつけだった。周囲に気味悪がられるのをおそれたため、幼馴染みであるディーンと両親以外には、その能力のことを話していなかった。もちろん、魔導師養成所にも内緒である。

「魔導師やら神官やらが束になって探してんのに見つかってないわけだろ? それをなんで俺たちが……。だいたい、子供にやらせることじゃないよな」
ディーンはさらに愚痴った。
キイスはあきらめ顔で力なく笑った。
「仕方ないよ。探しに行ったっきり戻って来ない人ばっかで、人手不足なんだから」

銀の泉探しは、剣士養成所や魔導師養成所まで総掛かりなのだった。
二人が森に入って、かれこれ1週間が過ぎようとしていた。
この間、一度も魔物に遭遇していないのは、キイスの能力による。森の木々や草が危険を知らせてくれるため、魔物を避けることができたのだ。

「泉があるかどうか、森に訊いてみてくれないか?」
「それが、ダメなんだよ。泉の事になると、みんな黙っちゃうんだ。危険な時は、”そっちへ行くな”って知らせてくれるのに」
「そうか。タブーでもあるのかもな」
「うん、こんな事は初めてだよ」
「しょーがねーな。自力で探すしかないんだな」

二人は、昼間も木々の影で薄暗い森を歩き続けた。

木々の間から光が見えた。
上からではなく下からの光。
木漏れ日ではない。
地面にある何かが発光しているか、または太陽の光が反射しているか、そんな感じだった。

光の方から水音がする。

「水面で光が反射してるみたいだな」
キイスが言った。
「ああ」
二人は光の方向へと向かった。
近づくにつれて、水音が大きくなってきた。

突然に、森の中の開けた場所に出た。
泉だ。
全体が銀色に見える。
湧水が溜まって泉となり、そこから小さな川ができて、低地へと水が流れている。

「すげえな……」
ディーンは立ち止まった。
キイスは泉に歩み寄り、水の中をのぞき込んだ。
「光ってるのは水じゃないな。水は透明……よく澄んでる」
「へえ……」
ディーンも泉の岸に立った。
「水底に苔みたいなのが生えてる。それが光ってるんだ。珍しいな……」
「苔……か。そいつら、何て言ってる?」
苔だって植物である。キイスの能力なら、何か読み取れるのではないかと思い、ディーンは尋ねたのだった。
「特に何も。眠っているみたいだ」
「ふうん」
ディーンはぐるりと辺りを見回した。

「一応、”銀の泉”には違いないよな、ここ」
「そうだね」
「泉の乙女とやら、いるかなあ」
「さあ……?」
その時、ざわっと風が吹いた。

キイスは驚いて周囲の木々を見た。
「どうした?」
ディーンの問いにキイスが答えた。
「ここ、銀の泉だってさ。でも、場所を教えちゃいけないから、黙ってたって。ただ、ここまでの道から逸れそうになったら、”そっちへ行くな”って言うのはアリだったんだって。みんなちゃんと導いてくれてたんだ」

森の木々の沈黙自体が、道案内だったのだ。

キイスは風に乗せて思考を飛ばした。

”みんな、ありがとう”

また風が吹いた。
キイスは意外そうな顔をした。

「ディーン」
「何?」
「水底に銀色に光る苔が生えてる泉って、ここだけじゃないんだってさ。僕らが知らないだけで、大小様々な泉が点在してるって」
「てことは、つまり……」

「ここは銀の泉には違いないけど、”伝説の銀の泉”かどうかはわからないってことだね」
「そうか……なら、泉の乙女がいたら当たりで、いなかったら外れなわけだ」
「そういうことになるなあ」

二人は泉を眺めた。


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